行間を読む

男同士の言葉に出来ない何か

物語の終わり

湊かなえ

朝日新聞出版

湊さんは本当にオムニバス形式の話がうまい。今回は「空の彼方」という小説が様々な人の手に渡り、それぞの背を押してくれる形になっている。
各々の登場人物が「空の彼方」を読み全く違う要約の仕方や結末の出し方をしているのが面白かった。みんな違う人間なのだから当たり前なのだがそれでも、その語り部らしい要約や結末は個性が出ていて登場人物が「生きている」ことが実感出来た。

「過去へ未来へ」
最初は区切りの意味の旅行かと思っていたが、まさか自身も癌だとは思わなかった。父親への思いと自分の子への思いに泣いてしまった。驚きながらも幸せでありますようにと思わずにはいられなかった。

「花咲く丘」
今作も驚いた。てっきり、それでも夢を追うのかと思っていたらまさかの工場を次ぐ決断。逃げではなく、結果の為の過程という答え。何かを作るにはやはり作り手のこれまでの生き方が重要な気がした。

「ワインディングロード」
彼氏がなんちゃって小説家過ぎて笑ってしまった。出来る人は無言実行なのだと思った。どうあがいても拓真さんの方が素敵。「頑張れ! 未来は無限だ!」と応援したくなった。

「時を超えて」
父親の苦悩。幼い頃の影響はやはり凄いなと感じた。「当たり前の日常」を父親が与えてくれたことに感謝。帰る場所があるから頑張れるんだと改めて実感。

「湖上の花火」
振り返って一体自分には何が残せたのかと不安になりながらも自分を肯定するのはとても大変。2人の人生が交差した瞬間は無駄ではなかった。今作はとても気に入っている。

「街の灯り」
生きてきた実感が凄く伝わってきた。過去を懐かしみ、現在に悩みながら、未来に思いを馳せる。そうやって生きているんだ。間違っていたかと過去を後悔するのはみんな同じだ。

「空の彼方」「旅路の果てに」
未完であった「空の彼方」が完結したのは良かった。最初の方にあった伏せん回収に感動。おばあちゃんに後悔がなくて良かった。学校という組織の窮屈さも、友人関係やヒエラルキー、長けている人への嫉妬も生々しかった。自分で答えを見つけ、どうするのか決断出来て良かった。不登校になってしまった2人がまた笑い合えるといい。

どの話も面白くお気に入りを決めることは難しい。けれど、「空の彼方」がいい終わり方で本当に良かった。しかし、この結末では他の語り部たちの背中を押すことは出来なかっただろう。そう考えると未完で良かったように思う。
人は弱いけれど生きる力はみんな持っているんだと思うことが出来た。
人と人との出会いがきっかけを与えてくれる。人だけではなく、景色や小説、映画、この世に存在する数多の娯楽だってそうだ。みんな心を動かしてくれる。
人は悩み苦しみながら、様々な奇跡のような出会いをしているのだ。
私も誰かの奇跡になれたらいいな。